参院選が終って・内向き志向が優勢な社会への違和感
森田明夫
暑い最中の参議院選挙が終わった。自民・公明の敗色濃厚という事前の予想通り、かなり自民も公明も議席数を減らした。その中で議席数を伸ばしたのが参政党という新進の党である。東京ではその女性候補のさやさんが第一位当選となった。その政党が掲げるのは、「日本人ファースト」というスローガンと、「消費税の廃止」である。
一方で自民・公明とともに議席数を落としたのが、旧態然とした体制と見られた立憲、維新などである。れいわなども言っていることは相変わらず突拍子もないがお株を奪われた感じがある。
さて、他の国に目を移しても、米国をはじめ、フランス、ドイツなどどの国も移民を嫌う政党・政権が主流となりつつある。現在無謀な戦争によって多くの難民が生まれているご時世で、このような主流の国々が困った人たちを受け入れなくなってしまったら、世界はテロリストで溢れてしまうのではないかと危惧する。
中東で起こっていることも、ウクライナへの侵攻も、憎しみと恨みしか残さない戦いのように思う。親や兄弟を殺されてしまった人はその後どのように感じ、育ってゆくのか、自ずと考えが及ぶ。
80年経った今でも日本人の朝鮮半島への侵攻は、何度も日本韓国間の懸念材料となり続けている。
一言で分断された社会・時代とか、言われているが、現在は歴史的な長く続く「恨みを生み出す時代」となっているように思う。
世界の代表的為政者がその分断や恨みに油を注いでいるのだから、なんとも悲しい時代だと思う。そして、そのような言葉を煽る人たちが人気の投票をえて、まともに着実に社会を維持しようとする人たちが、置き去りにされてしまっている。
自分たちだけ良ければ、良い。今の生活が守れれば良い。なるべく外からの刺激は受けたくない。そのような生き方や生活にどのような未来が待ち構えているのだろう。
日本や欧米、中国、韓国、台湾などの少子化の危機的現状から見ると、どうあっても今後は画期的なAI制御のロボットが開発され手塚治さんが考えたような未来社会になるか、良心的な移民の制御された導入がなければ、このような国々に未来はない。
自分の昔を思っても、昭和30年代・40年代は、生まれ故郷の岩槻も、家の周りも、地方の街を訪ねた時も、街に色が溢れていて、人がたくさんいて活気に満ちていた。自分の家もカラーテレビもなくて、richな家とはとても言えなかったが、これから起こってくることに、とてもワクワクしていたように思う。そして、メールやネットなどのまだ発達していない1980年代に留学をきめ、米国で一兵卒のような脳神経外科医を志し、わけもわからず飛び込んでいった海外だった。今になって思うと、往復2~3週間もかかる書簡のやり取りで、よく留学や、異動を決められたたものだと思う。その他日常的な卑近な例ではミネソタからyellow stoneやワシトンDCまで、ナビもなく、ただ妻が助手席に座って地図を案内するだけでよく到達できたものだと思う。今とは全く別世界の不便な世の中でも、生き生きとして、夢がある人生をやりくりしていた。
先日M3という医療関係の電子記事に東京大学の南学医学部長の学会での講演内容が紹介されていた。東大でさえ医者の留学嫌いが止まらないという。日本で着実に実績を積み、切れ目のない時間を積んだ方が最終的に生涯給与や地位や経験値は向上すると考えられているらしい。確かに米国でいた時間が長い私など、ものすごく予想年金額が低い。
ただ海外で時間を過ごすということは、自分の世界をとても大きくしてくれるということを知って欲しい。学術や医療のことだけではなく、人間関係や、社会の違う仕組みを知ることなどは、自分の考え方の幅を大きく変えてくれると思うのである。それは留学に成功した?人の弁だろうとも言われるかもしれないが、失敗しても良いではないか。海外での失敗や挫折も多分その人の今後の力になると考えるのである。
ではこの内向きの社会、自分の国の人たちが最も大切と考える社会にあって、私たちはどうしたら良いのだろう。
ACCEPTだと思う。受け入れる。受容する。
今の少子化、高齢化社会を受け入れる。将来日本人が1/3に減少した時代がくることを受け入れる。多分純粋な人種としての、日本人の人口減少を止めることはできず、100年後、5000~4000万人くらいで落ち着く。日本の国土の数10%は他国の資本に購入される。
多くの仕事は外国人労働者や、自動化が受け持つことになる。
ではそうなることを予測して、日本人としての矜持や感情をいかに持ち続けるか? その時のためには、国際化された感覚を持った日本人が多く海外の舞台で活躍していることが大切だろう。
今の大谷翔平選手の活躍を、20年前はどんな漫画家も誰も想像できなかった。料理の世界でも注目される人たちが出始めている。多分同様な事例が、医療・科学の世界、芸術、ビジネス、そして政治の世界などでも起こってきてくれることを信じている。そうすればそれらの人物は今の大谷選手がそうであるように日本人の誇りとなるだろうし、日本人としての魂は人口が3000万人になっても残るだろう。江戸時代日本の人口は3000万人代、室町時代は1000万人だったという。そこから日本が世界の一流国になれたように、新しい日本が生まれてくるのではないかと思う。
今開成学園の理事を務めさせてもらっているが、幸いなことに開成の中でも最優秀な人たちは東大や医学部にこだわらず、海外の大学を志望するものが数名いるそうである。そういった人たちの中には企業して、大金を手にしている人もいる。お金が夢や成功の指標というわけではないが、わかり易い指標ではある。学術の世界でも活躍してくれる人も出始めているという。ぜひノーベル賞級の研究をリードする人間を輩出して欲しいと思う。
さて最初の政治の話に戻るが、私など政治には全くの素人であるが、一国民として思う・願うことは、政府がしっかりと今後の日本の100年の道筋を立てて、日本がどうあるべきか、日本人がどう生きるべきかの事例を示して、わかりやすく国民にしっかりと説明してゆくことが大事なのだと思う。たとえば高額医療制度について、確かに現在の高額医療を全て税金で賄うことは将来的にも難しい、ただ拙速にことを運ぼうとした行政と政府はしっぺ返しを受けてしまった。一本1億円という注射薬があり、その効果がどうであるのかなどの事例を挙げて、そしてそれは日本人が働いた税金で支払われていること、そして現在国が持っている予算の収支をしっかり示して、このまま破綻した予算が続くと日本の国の価値や評価が国際経済の中でどうなってしまうのか?など、1からしっかり説明してゆくべきである。「地方創生」とか、語呂の良い、耳に受け入れ易い言葉ばかり選ぶのではなく、しっかりとわかりやすく、実態が見える説明を繰り返す必要がある。
日本はとても良い国だと思う。国民性も素晴らしい。それが、自分勝手に言いたいことだけを言い放って責任はもたない、SNSのいじめ犯のような人ばかりが増えてくる社会になってしまうのだけはどここかでストップをかけないといけない。
雑談:先日夏休み兼休日を利用して、かねてよりの念願だった礼文島を訪れた。海抜10mに本土では2000m級の山に登らないと見られない高山植物が咲き乱れる“花の浮島”と呼ばれる離島だ。稚内からフェリーで約2時間。途中利尻富士を左手に見ながらの航路になる。産業は漁業と観光が中心で、特に昆布、うに、ホッケや鮭、ソイなど北の魚の水揚げは素晴らしい。そして5月後半から8月までは、花の季節となる。香深という島の中心となる東側の港町を中心に多くのハイクトレイルが準備されている。朝食前にホテルのガイドで最もポピュラーなコースの触りを歩くと、ガイドさんは20度Cでも暑いという。あいにく我々が伺った時は、雨と霧が日中交互に来て、なかなかば〜〜〜っと見渡すという景色には出会えなかったが、却って幻想的に霧に浮かぶ「えぞにゅう」という当帰・セロリ科の仲間の花とか、霧のために岩の断崖にも一面に花が育つ環境、緑色に染まった断崖など、素敵な景色を楽しめた。もちろん美味しいウニやお魚料理も素晴らしかった。今度はもう少し早めの時期に行って、歩くツアーを楽しみたいと思う。
日本には、まだ行ったことのない素晴らしい自然や文化を持つ地域がある。
そのようなところが廃れないように日本という国が素晴らしい国であり続けられるように、世界を舞台に活躍してくれる人たちが増えてほしいと思う。
緑の断崖