岸田君のお話しから
森田明夫
日本国の前首相を岸田君などと呼ぶのは大変おこがましいのだが、高校の同級生というよしみで許してもらいたい。
先日母校開成学園の父母会で岸田君のお話しがあるというので会場の体育館で聴講させてもらった。対象は中間試験真っ最中の土曜日であったが、開成の在校生1000名超、私を含めたゲスト数10名。父母は現地とwebで数1000名が聴講した。国の元首をした人の話というのは、非常に重いと感じたので、少し内容を紹介させて欲しい。
まず岸田君の開成での思い出からの出だしだった。高校から入学の彼も、ボートレースで歌を喉が張り裂けんばかりの声で歌わされたこと。隣の教育大付属の応援席には私服女子がたくさんいて、黄色い声で応援されていて、数年間続けて男子の怒号の応援虚しく開成のボートレースは負け続けていたこと。高校3年生では、中1から高校2年生までの運動会チームを竹刀を振り回してスパルタで訓練するのが常だったが、クラスのご意見番が、「それぞれの自主性に任せてはどうだろう?」と言った意見に皆が賛同して、自主性に任せた運動会競技訓練をしたところ、、結果はボロ負けであったこと。それによって、『人を動かすためには飴と鞭が必要』なことを知ったこと。古くて汚いボロボロの校舎での楽しい学びでは、周囲の埃で黒の学生服を汚さないで立ったまま体操服に着替える技をつけたので、外務大臣をしている頃、海外でちょくちょく服をタキシードとか色々な服に瞬時に着替える技として役立ったという話。
さて、彼の開成学園の生徒へのメッセージはまず2つ。彼の高校生活は、興味のあった文集の読書で終始して全く受験勉強には力が入らず、結局2浪することになったこと。そして、大学卒業して銀行に勤めたが、銀行が金融破綻で失業してしまったこと。そして政治の世界を志すことになったことなどを例に挙げて2つの大切なメッセージを伝えた。
1) 人生何が起こるかわからない。
思い通りにいかないことが多いけれど、へこたれずに我慢し、生きながらえれば、なんとかなるということ。
彼は、実は自民党内で森総理の時に起こった加藤の乱の反乱勢力にいたとのこと。その後全ての役職を外され、とことん鎮圧されたこと。その後の我慢が大切だった。との話。
2) 失敗したら、反省はしても、後悔はするな!
人生どんな時期にも、失敗にも意味がある。無意味な人生はない。ということ。彼にとって受験の失敗も、先ほどの加藤の乱での失敗も、銀行の破綻も全てに意味があったこと。後の人生で、たとえば彼が、金融政策を打ち立て、「世界に日本は買いだ!」と訴えた時にも、私は日本の総理大臣の中でも唯一金融界出身のものだ!その私がいうのだから、嘘はない。と付け加えたそうである。
さてそのよう一般的教訓のほかに、開成出身者には色々なリーダーになる人が多いということから、リーダーに必要な力を3つ話してくれた。
リーダーに必要な力は
1) 人の話を聴く力。
2) 決める力。
3) 伝える力。
だと言う。
昔は親子3代で同じテレビを見ていたので、否応なしに興味のない番組でも見ることになり、様々な情報が耳に頭に入る。そして会話がある。一方現在では、ネット社会で、自分の世界に閉じこもり、自分が好きだと思う情報しか読まない、見ないようになっている。自分と合わない意見や情報は遮断し、時には誹謗中傷する。そうして今の分断社会が生まれてしまっている。生身の人間同士が、直接話あい、意見を交わすことがものすごく大事な時期に来ている。
遮らないで人の話を聞く態度がすごく重要なのが、色々なところで目につく。
次に決める力について、コロナや戦争の勃発、それに引き続く物価のとてつもない上昇、これらのそれぞれについてきちっと決断をしてゆかねばならない。自分の国の自主防衛についても、先送りしてきた課題に決着をつけなければならないと言う観点から、自国を守れる力をつける防衛予算をつけた。
ただ決断すればするほど、敵も増えるということを実感したと言う。なあなあで皆に良い顔をしていればその場は良いかもしれないし(内閣支持率も保てる)が、将来のっぴきならないことになってゆくことは明らか。今話題になっている減税についても同様である。確かに物価上昇で生活は苦しいが、だからといって減税をすれば、借金だらけの日本の政策が他国に信頼おかれなくなり、国債の利率がものすごく上昇してしまうことになりかねない。今はしっかりした政府で未来を見据えた予算措置をしているから信頼されているが、その場しのぎの人気政策をとればどのようなことになるのかは明らかだ。と。
最後に伝える力について。しっかりと自分の想い・信念をわかってもらうことが大切だということ。
そんな話の後、学生の質問を受けた。
開成の学生は、本当に感心したが、きちっと的を得た質問を、高校3年生から中1までしっかりとできていた。私など恥ずかしくて、質問しようとするとドギマギしてしまうのに。。
質問1(高校2年生?):岸田元総理にお尋ねします。高校時代 受験勉強しなかったのに、どうやって浪人中はギアを上げたんですか?
A: なかなかすぐにはギアは上がらなかったけど、また浪人時代もたくさん友達ができて、今でもとても仲良くしてもらっているけど、人間のやる気って波みたいなもので、結局どこかで帳尻が合うんじゃないかな。。
質問2(高校3年生?):岸田先輩にお聞きます。人生で最も緊張した時はどんな時ですか?
A: (少し考えて)外務大臣の時に、日本国を代表してロシアのプーチン大統領と話をした時。日本の国益、日本を代表して困難な相手と話をする時ほど、緊張、興奮することはない。とのこと。さらにプーチンさんは数時間遅れて現れ、待たされ、先生パンチをくらわされていたとのこと。
(私は、「総裁選で河野さんと争った時」と答えるかと思ったのですが、さすが、国の元首を務めた人は、個人的な争いよりも、国のためのことが真っ先に来るのだな。と思いました。)
質問3:(中学3年生?):岸田総理(?今は総理ではないが、)にお尋ねします。開成の経験が外務大臣のときの着替え技術で役にたったそうですが、総理の時に開成の経験が役立ったことはありますか?
A: 友人関係や人脈ですね。開成と言う優れた人たちの集団から多くの助けをいただいたと。
質問4:(高校1年生?):岸田総理、若者には、投票の1票の価値が低すぎて、投票率が低迷しています。どうやって投票率を上げようとお考えですか?
A: カンボジアでは独裁政権で国民の投票なんてできない時期があった。それが解放され、投票権が生まれた時、数時間かけて喜んで投票に行く人の画像が紹介されていた。自分たちで政治を動かしていくという自覚、より良い国にしようという願いを皆が抱いてくれれば自ずと投票率は上昇すると思う。
どうやって目先の数値を上げようとするかよりも、国の政治が魅力的に見えるようになることが重要と考えます。
(ちょっとハッとさせられるお話だった。例えば数値目標。そればかりが先走りして、本来の物事の真髄は何かを見極めないといけないと言うこと。)
質問5:(中学2年生?)::総理はエゴサーチしますか?
A: 人の評判を聞くことも大事だが、人の評判にこだわりすぎると心が折れるので、なにくそと言う気持ちを持ち続けるために、していない。大事なことは秘書官に伝えてもらっていた。
質問6:(中学1年生):岸田元首相にお尋ねです。少子高齢化社会ですが、どうやって保険福祉の費用を支弁しようとお考えですか?
A: まずは異次元の少子化対策も必要。その上で、裕福で健康な高齢者の負担なども考慮する必要がある。バランスとれた保険福祉行政が大切だと思っている。
父母会からの要望は、 『ぜひ再度総理になって、明るい日本を取り戻す努力をしてほしい!』
最後に自身のお話を再度繰り返し、失敗しても、結局は何が起こるかわからない。過信や名誉心が打ち砕かれることもある。でもその先に、そのことに何かがあると信じて、前向きに頑張ることの大切さを強調した。
全てを覚えているわけではないが、このような内容のお話だった。
現在ネット社会でコスパ、タイパの重視、目の前の利益の重視、などが色々な世代、業種で見られる。医療界では、それほど重い修行をしなくても、収入の良い美容外科に直接就職する「直美」などが課題となっている。3Kの外科などは入局者が著しく減少している。将来日本医療の土台が危ぶまれている。
どんな無駄に思える時間も、訓練や勉強や、辛い経験も意味があり、自分を育ててくれる。
回り道、失敗、後戻り、全てに意味がある。
そして、苦しい時も耐え抜いて、再生する力をつけることが大切というメッセージだった。
特に経営状況の悪い病院を任された身としては、心を蝕むようなストレスばかりだが、本当に心に染みる話だった。この心を病むような苦労や悩みも、何かのきっかけになるかもしれないと。
雑談:
5月は連休での患者減少をビクビクしながら始まった。でも結局大幅な患者減少を見ながら、自分は呼び込みをするわけにもいかず、連休は新潟や長野を旅してきた。
銀山平はまだ雪深く、雪と山桜の共演。蕗のとうやつくし、行者ニンニク、甘草とかが一斉に芽吹いている。北方博物館の藤は今年はやや遅くて、やや短い印象でした。松本では、町外れにある浅間温泉に泊まる。松本本箱と言うテーマのお風呂場を本の見本市みたいにした宿である。古い宿は自由人とか星野リゾートとかの新しい資本による経営に変わっているところが多い。松本は町中から北アルプスの雪解け水が地下に蓄えられていて、豊富で綺麗な水が飲み水として町中に流れている。美味しいコーヒー屋さんが多いそうだ。お蕎麦もとても美味しい。5月半ばには1年間取り組んできた京急グループとの連携の一つの形として、京急ストアから健康に留意したお弁当が発売された。題して東京労災病院森田院長・脳神経外科医の監修お弁当。身体想い弁当。です。京急ストアのノウハウと当院の管理栄養士やお弁当プロジェクトのチームが出した健康によいバランスを、うまく取り入れたお弁当ができた。とても嬉しい出来事だった。おまけに売れ行きもまあまあらしい。今度お弁当コンテストに出品するようなので、うまく入賞してほしいと思う。鈴木大田区長にご紹介したら、区長のSNSで紹介してくれました。
写真:
銀山平の春
新潟港と北方博物館の藤
松本にて