報告:大田区との合同災害訓練を実施しました と 「お金のお話」について
先日11月30日(土曜日)に大田区との合同災害訓練を実施しました。DMAT隊員の脳神経外科・加藤部長と4階西病棟・末永師長の差配で医師、看護師、薬剤師、技師、事務職など当院職員約80名と、大田区職員、大田区医師会の医師、地域の自治体ボランティアの方々約50名程度に参加いただき、千葉で震度6強の地震が発生したという災害を仮定しての訓練でした。当院の大田区の6万人の住民がいる大森、糀谷、羽田地区の周辺の救援から孤立しうる地域にあり、この地域の中心拠点として災害対応にあたるよう位置付けられています。
訓練開始後、病院院内から続々と報告される施設の被災状況は、断水、ガス停止、停電しており、通常電話回線もストップしており、病院機能はある程度保たれるが、通常診療は実施できないので、災害救急患者だけを受け入れられるというモードCの発令をしました。病院の患者の現状、院内患者の怪我、職員の怪我の状況の把握、さらに震度5強以上では全職員は病院に集合するという原則のもと、職員・その家族の安否も含めた職員登院状況の把握、その来院した医療人材の適所への差配を実施します。救急来院患者はボランティアの住民の方に、模擬患者(SP)をしていただき、病院前に設置した救護所でトリアージを実施、緑・黄・赤・黒ゾーンに患者を仕分け、途中で黄色から赤に変わる患者なども想定、患者の診断に基づいて、入院・手術・治療などの方法を検討しました。当院はICUは6床、オペ室は急患対応は3件同時手術可能、4階西病棟は救急患者を20名まで収容できるので、そのキャパシティーに応じた急患受け入れ、開頭手術や骨折治療、消化器疾患の治療を実施するというシナリオで進めました。さらに近隣の医療機関からも緊急転院を受け入れるとい設定で、当日同時に災害訓練をしていた渡辺病院からの脳神経外科の意識のない患者などの転送を受け入れるというシミュレーションも行いました。かなり病院機能に負荷のかかる状況を模擬した設定でしたので、その間に様々な事象で「ここはどうするべきなのか?」などという案件が浮上してきました。全体での情報周知をどうすべきか、職員家族の被災や地域・日本の被災状況からの当院のできる対応とか、医師が足りない時には近隣の開業されている医師に応援を頼む、また当院で対応しきれない患者数の場合、軽傷・中等症であれば、近隣の中規模病院への逆転送などという案件も課題として提案されました。あらかじめ地域の医療機関とはそのような連携を組んでおく必要があると思いました。
また地域にはけがや病気でなくても被災して自宅に住めない人も、また病人を家に抱える住民もいらっしゃると思います。当院へそのような被災住民がいらした場合にも、広く住民を受け入れて保護するという基本方針も確認しました。病院には幸い食料や水の備蓄が全患者(400名入院)、職員(680名)の3日分の備蓄があります。また東京都の連携で災害拠点病院として医療ガスや非常発電に必要な重油なども優先して提供されることになっています。そのような当院の災害拠点としての役割を再認識しましたし、当院のインフラがどのように管理されているのかも知ることができました。通常診療を実施していく際には気づかない様々な課題をあぶり出すことができました。
今年の1月には能登で大地震、翌日には羽田で旅客機が衝突・火災となるという事象が発生しました。災害や事故はいつ起きるかわかりません。特に後者ではJALのCAさんの的確な指示と、乗客の素早く整然とした行動がJAL機では一人も怪我人や被災者を出さなかったという奇跡が起きました。これは日頃の災害・事故時の訓練によって、いつ何が起こっても対応できるという心構えとスキルが身についているのだと思います。我々、医療機関においてもそのような対応がマニュアル無しでもできるように、訓練を実施し、各構成員が自覚を持ってスキルと心構えを持ってゆきたいと思います。
さらに病院の体制が災害拠点としての役割を十分果たせるように人材・設備を責任を持って充足して行かねばならないことを私の役割として再認識しました。
雑談:さて雑談ですが、ちょっと重たい話です。先日母校で医学開成会という集まりがあり150名ほどの開成卒の医師の先生が集まりました。その会でMONEXグループのCEOの松本大さんが、今の日本や世界の置かれている経済的状況、そして医療や人材のあるべき姿を松本さんの視点からの意見を話してくれました。まず驚いたのが米国や日本ではコロナの前後で、コロナ前に総発行されたお金とコロナ後に刷られたお金がほぼ同じだというのです。といいうことはお金の価値は半額になるはずです。ですので米国では物価や給与がものすごく上がっているのです。給与など数倍になっていると言います。アパートの家賃など大都市では1LDKが40万円以上です。私の後輩の留学を志しているものもヒイヒイ言ってます。また金が昨年から100%以上値上がりしている(倍になっている;実際コロナ前からでは数倍になっています)のもそのためです。一方で為替レートはそれほど変わっていないのに、日本の給与や物価はどうでしょう?数%の変化でしょうか?欧米からの輸入に頼っている物以外の日本の物価の超低さが際立っています。またこれからの社会、もちろんAIの役割と導入が重要となってきます。米国・シリコンバレーでは企業が数100兆円の予算をAIの開発に投入しているようです。一方日本は先日政府が数兆円をAI に投資するという報道がありました。この数字を見ても企業レベルで数100兆円を支出できるのに、日本では国家レベルでもその100分の1です。日本のこの地盤沈下はどうしてでしょうか?松本さんの持論は、日本や開成学園では個人レベル(患者単位)でしか社会に貢献できない医師に優秀な人材が行きすぎている。エンジニアにもっと多くの優秀な人たちがゆくべきだ!とうことでした。確かに開成の上位100名(400人中)のうち70%は医学部志望でしょうか?政府にも多くの開成学園出身者がいますが、(先の岸田首相(同級生です)を含め、多くの官僚がいます)国の発展、インフラに大きく寄与するのはエンジニアだというのです。とくにITの関連での日本の凋落は優れたエンジニアの欠乏があると言われます。しかしエンジニアがもっと優遇される社会に日本がならないと、優秀な人は皆海外の企業に引っ張られてしまうでしょう。
非常に興味深い話で、世界の経済状況の把握など、本当に鋭い目で世情を解析されていました。講演後の質問に「少子化への意見は?」と問われたら、「子宮ポットの開発」を提案されていました。要は人工子宮(Review)です。私の友人が人工子宮の研究をしていたなと思います。たまごっちではないですが、現在の医学及び工学の知識・技術を集積すれば10数年後には可能なのかもしれません。結婚の少ない現在の社会情勢とあまり改善の見込めない将来を見ればそのような技術開発も重要だなと思いました。考えさせられるご講演でした。
最近は郵便料金はじめ日本の物価もじわじわと上がってきています。一方で医療の収入の元となる診療報酬はほとんど変わっていません。これだと医療従事者の給与を上げることができず、どうにも医療の低迷が危惧される事態です。 なんとかお金の量に応じた値段設定を検討してほしいと思います。