「蒸す」と「茹でる」
森田明夫
最近とても蒸し料理にハマっている。ウー・ウエンさんという中華系の料理の先生をいわば心の師匠のようにして、その本を漁り熟読している。また有元葉子さんの無水鍋料理もとてもためになる。
それらの料理の中でも野菜と肉の蒸し料理がとても好きである。ではすごい蒸篭(せいろ)とか使っているのかというと、実は高い蒸篭を取りやせでは購入していてもいつも使うのはル・クルーゼの蒸し鍋(自宅)か無水鍋(病院寮)である。後の処理が簡単なのと、蒸し蒸気の漏れが少ないと思うからである。特にウーさんおすすめの富山石黒種麹店の塩麹をまぶして一晩寝かせた豚肉や鶏肉を蒸した料理は最高だ。もう少ししたらこれまた心の師としている山口惠以子さんの鱈とかを使った中華蒸しなどにも挑戦したいと思っている。
では“茹で”と“蒸し”はどう違うかであるが、これは茹で豚と蒸し豚のうまさの違いもさることながら、特に野菜においてはその違いは歴然だ。ブロッコリー、アスパラガス、これから美味しくなるとうもろこし、ジャガイモなど蒸して食べると、「野菜ってこんな味だったか!」と感動に浸ることになる。どれもこれもすごく美味しい!アスパラの甘さ、とうもろこしの旨さが沁みる。AIに聞いてもその違いは歴然で、茹でると野菜の水溶性ビタミン(Vit.CやB)が半減することが知られている。では蒸し料理にコツはあるのか?これもウーさんの受け売りではあるが、蒸したらすぐに蓋を開けないことである。蓋は蒸したあとしばらく閉めたまま放置する。私は少なくと数分から10分くらいはそのままにしている。野菜など茹ですぎるとクタクタになってしまうが、アスパラなど2〜3分中火で蒸して3分くらいおいておくのは全く問題ない。蒸してしばらくおくことで、蒸気にのった旨味やエキスが、元の野菜や肉に戻るという仕組みらしい。じゃがいもなどは蒸すのに30分くらいかかるが、蒸したじゃがいものしっとり感と甘さは格別でウーさん本にも家で7つくらい蒸してもあっという間に消えると書かれている。
もちろん蒸しに近い方法として、ふわっとラップして電子レンジでチンするという手もあるが、どうも私は、もやしなどでも電子レンジでチンするよりも1分蒸し器で蒸した方が好きである。多分栄養価も味も科学的には変わりないのではないかと思うが、どうも料理法にもこだわりがあり、苦労しない料理法はあまりおいしくならないと感じている。最近はAIに聞いたり、タイパ重視が流行っているが、時間と苦労をかけないものにどれほどの価値があるのか甚だ疑問である。さて料理に戻るが、では「茹でる」が意味がないのかというと全くそんなことはなく、特に灰汁の強い野菜(ほうれん草等)では茹でることも重要だし、汁を味わう鶏鍋などではもちろん、茹で豚でもその茹で汁は十分に美味しいスープとなる。茹で汁に旨さを移した野菜スープなど素晴らしい料理である。今ドラマでやっているムショラン三ツ星では小池栄子演じるフレンシェフ葉子が安価だが(刑務所の食費は3食で543円だそう!病院食の1食690円なんて生やさしい)とても美味しそうな野菜スープを作って、傷ついた囚人を救っている。作りながら「リベンタデリジョーソ(?)(おいしくなーれ と訳されている)」とかいうおまじないをかけているのが面白い。
以前圧力鍋と低温調理というブログを書かせてもらったが、その頃は脳神経外科医兼教育者をしていたので、教育法やトレーニングにも圧力をかける方法とじっくりとゆっくりと鍛えて行く方法がある、、といようなことを書いたと記憶している。今回の2法の違いは、多分素材を活かすための料理法と目的に応じて注意が必要ということだろう。特に現職では目的や立場を異にする色々な人たちと話をし、さまざまな決断や、声かけをしないといけないのだが、同じ対応で全員と対応できるかというと全く違っていて、それぞれの人のことをよく知らないといけないとつくづく思っている。「人生学ぶことが多い!」と思う今日この頃だ。それこそAIに聞いても答えは出ないし、タイパは悪い。
雑談:
また料理と食についてだが、最近は平松洋子さんとうエッセイイストの本にも凝っていて、古本も含めて10冊まとめて買い込んで読みあさっている。何しろその豪放磊落な飲食の表現と、筆致がとても好きである。「アジフライと有楽町」でという本では鯵フライから肉から羊肉の話までとっぷりと有名店の紹介とともに書かれている。全国各地の美味しい居酒屋やレストランの味をはじめとして、ベトナムや韓国、パリに及ぶまで、その地域の料理の特徴と素晴らしさ、お酒の味が余すことなく書かれている。どれでも良いので一読をおすすめする。ベトナム、タイ、韓国の料理にはとても造形が深く、詳しい料理やその現地での日常を語る本まで出している。そのうち私も、、などと思ってしまう。
さて最近感動したお店について紹介すると、小田原で先日週末を過ごしたのだが、小田原はそれこそ鯵フライやしらす丼、おでん、かまぼこ、梅干しなどが有名なのであるが、今回のイチオシはIttokuというフレンチビストロだ。コースしかないのだけれど、6600円のコースが素晴らしい。元は箱根の有名な富士屋ホテルの料理長をされていた星一徳シェフが奥様(?)と2人で営む席数10ほどのお店である。ご主人は週3日ほど休んで、釣りや食材を求め、初島沖や駿河湾で釣った太刀魚やいさきをうまく熟成させてサラダとかソテー、ポワレなどにして出してくれる。一つ一つの皿がとても簡素だが素敵に盛られていて、店内も奥さが描かれたと思われる葱坊主の絵と窓ガラスの線画、干した木の実がついた枝などを飾り付けていて心地よい。素敵な一晩だった。ついでにいうと、小田原のヒルトンリゾートの朝ごはんもとても素晴らしい。小田原に有名な早瀬の干物(ちなみにここの鯵の干物は最高!)というお店があるのだか、そこの干物やお正月にしか食べないような鈴廣の最上級のかまぼこ、しらすや鯵の叩きを載せられる海鮮丼も存分に堪能できる。海鮮丼は出汁茶漬けにもできる。海を望む温泉やサウナもあって、東京から至近の息抜きに良い場所だ。
Dr.森田の脳外漫に掲載の料理コラムから。蒸し料理レシピ。
富山県南砥市の石黒種麹店 小田原場の紫陽花と菖蒲小田原のNiceなビストロITToku
駿河湾の朝焼け 早瀬の干物やさんと北条早雲像(小田原駅前)





