韓国医療界の今

 

     韓国医療界の今

       東京労災病院 森田明夫

      

       先日韓国で脳神経外科の脳血管障害と脊髄・脊椎疾患の国際学会が連日であり、両方に招待されたので、約8年ぶりに韓国ソウルを訪ねた。韓国の脳神経外科は血管障害も脊髄も日本に追いつけというよりも、目は欧米を見ており、とても進んでいる。脊椎のロボット手術は日本では保険償還がないためほとんど進んでいないが、韓国ではYonsei大学やソウル国立大学かなりの施設が導入している。人口がソウルとその周辺の大田などにかなり集中(全人口の1/2位)しているので、大病院に集中するという傾向が強く、日本のように数百床規模の病院が乱立ということはなく、欧米型の数千床規模の病院に集約した医療を行っている。大学の教授も同じ脳外科でもたくさんいて、血管障害や腫瘍、脊髄、小児などそれぞれの専門家が集団を作っており科の主任教授は2年〜数年に一回ずつ交代してゆくというシステムである。お年の先生も含めて、英語がとても上手で、脊髄・脊椎の学会は国内の学会も含めて、全て英語で進められていた。ほとんどの先生が欧米への留学経験がありあまり言葉に困ることはないらしい。

       さて、今回の学会では、会長講演の代わりに現在韓国の医療界には激震が走っているという内容の特別公演があった。ユン現大統領及び韓国の厚生省が医学生募集定員を今の年間40医学部3000人強から(日本は82校で約9000人)2000人増員するすなわち今の1.6倍の人が医師になるという政策を打ち出し、医学部や医師会などの医療界には相談せず決めてしまったのである。その理由は日本と同様の医療の偏在、医師の診療科の偏りである。日本でも今非常に問題になっているのが、美容外科に大学医局や外科を経ずなる人たちが増えていること。よく知られている通り韓国は美容外科が古くから有名であり、外科や救急、小児、産婦人科などエッセンシャルな医療に必要な診療科を選ぶ医師が日本よりも少なくなってしまっている。当然医師や医学部学生は猛反発し、現在医学生の75%(14,000人)が休学中、研修・専攻医は80%(約10,000人)が仕事ボイコットから始まって、退職してしまったそうである。ストライキどころか退職である。また医学部学長や教授陣もこぞって反対の意思を政府に告げたが、全く反応はなく、教授の中にも退職が始まったそうである。一方でそうなれば、研修医がいなくなるので、上級スタッフが当直業務、救急業務をしなくてはならなくなる。手術の手伝いもなく、教授同士で手洗いして手術を相互に補助したりなんてことをしているそうである。まだ本当の意味で、医療危機になっているのかは不明だが、このまま続けばやがて救急医療の不備、日常診療にも影響が及んでくるだろう。政府は政府で、休学している医学生は退学、退職した研修医からは医師免許剥奪を検討中とのことである。日本で同じことが起こったらどうだろう。1960年代後半の日本の大学での学園紛争は、無給医の問題とインターンの問題から発生したと言われ、多くの医学生がストに参加して医学生をやめたり、就職を拒否したりなどという今の韓国と同じようなことがあったという。しかし今の日本の医師たちは同じリアクションをするだろうか?多分しない。自分も含めて今の日本の医師たちは、政府の言うことをおとなしく聞いてゆく従順な態度をとるのではないかと思う。現在の日本の医療にも、働き方改革、研修のシーリング問題、そして診療報酬による政府主導の医療のあり方の否応なしの方向づけに対して、多少の抵抗はあるもの、なんとか個別に対応しようと努力をしている状態である。また医師数に関しては、故小川彰先生(岩手医科大学)が新規医科大学の設立には猛反対していらしたが、結局2つ新設医大が作られているし、大学も多くの地域枠という名目で10~20%の増員をしているという状況である。このような中、日本でも医師の偏在化、“直美(チョクビ)”と言われるノルマである必修の臨床研修を終えると直接湘南美容外科などに就職する人が増えている、などという問題が多く発生している。外科医の減少が危険値に達している。

       話を韓国に戻すと、彼らは今でも、50~60年前の日本と同じような若い感情を持っているというか、情熱を持っているのかなと思う。医療の進歩、医療への熱気というのも学会を見ているとよくわかる。日本の学会では質問というと、特に英語主体の学会でも、また日本語でする学会でも質問はせいぜい1~2件であるが、韓国では今回も一つのセッションで討論時間を30分以上とっているのであるが、時間が足りないほどの質問がくる。それくらい熱心である。

日本の今の医療がダメだというわけではない。日本の医療は成熟し、当たり前のことを当たり前にする時代と皆が認識してしまっているのではないかと思う。要は医師等(他の医療職もそうかもしれない)の意識が「これ以上はない。」という驕りのような感情に満ちてしまっているのではないかと思う。少しでも新しいこと、少しでも患者や社会に良いことをするためにはどうしたら良いかという情熱を持ってゆかないと、日本の医療も経済と同じように停滞してしまうのではないかと危惧している。自分たちの体だって、皮膚も、消化管も血液も毎日入れ替わっている。どんなに成熟した医療・科学・社会にも、その時々の進歩に合わせて新しいことはある。昨日の自分と今日の自分、明日の自分は違う。いつも新しい何かを求めてゆく気持ちを持ってゆくべきだと思う。

 

雑談:

などと、韓国の医師たちの若々しい、猛き気持ちを見て、日本も気持ちの若返りが必要だなと思った次第。

さて、昔から私は韓国は大好きで、食事をはじめとして歴史、文化、風景、そしてドラマ。今までに実際に訪れられたのは5〜6回くらいでしょうか。食事と言えば韓国=焼肉というほど日本では有名になったが、それ以上にもっとズーート美味しい鳥の料理(タッカンマリや参鶏湯)や豚の料理(サンギョプサルやポッサム)、また日本でも韓国レストランは野菜がたくさん出る方だが、韓国でレストランでテーブルにつくと頼む前からたくさんの小皿に盛られた野菜や小魚、なんだかわからないものまで出てくる。特に田舎のレストラン(釜山とか慶州とか)に行くと、ものすごい数のお皿が並ぶ。英語はもちろん通じないが、身振り手振り(隣の人の食べてるものを指差しであれと頼む)と“ビールジュセヨ!”ができればなんとかなる。まあ今であればポケトークとかスマホのアプリで翻訳使えばなんとかなる。野菜で豚肉を挟んで食べるサンギョプサルも日本でも最近流行り出したが、韓国のものは野菜の量が半端ない。風景や建物も何か懐かしさを感じる。屋根は日本の建物と比べると屋根が反り返っているが、立ち並び方、土塀や瓦を埋めた塀、ドラマの見過ぎかもしれないが、とても懐かしく感じる。多分私は以前の人生は韓国人だったのかとも思うくらいである。韓国語を聞いて、韓国の風景や文物を見ると「萌え〜^」っとしてしまう。ドラマはもっと大変で、一昨年かにハマりにハマった愛の不時着とかビンチェンツオ。ウ・ヨンウ弁護士は天才肌。その前はトッケビ、それより前は、トンイ、イサン、太陽を抱く月、イルジメ、さらに遡れば、Dream high, ホジュン、馬医、チャングムの誓い、元は冬ソナなどなど。どれも見出すと止まらない。これらのドラマも今はNetFlixとかで継続してみれるようになってしまったので、非常に体に悪いので(週末寝ないで見てしまう=週末眠れない)、流石に最近は頻度を減らしている。ただ世界でも評判になったパラサイト半地下とかイカゲームとかはあまりにも残酷なので見ないようにしている。

 

韓国ファンの独り言でした。

 

写真集

 

                                        韓国医療界の現状・発表スライドから
                                                 

  
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