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受援力

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  「受援力」 森田明夫 1/12(日) NHK ラジオのアサ いちのマイボイスで東大の上野 千鶴子さんが 「受援力」 の話をしていた。聞きなれない言葉だが、援助を受ける力(能力・コツのようなもの)のことである。介護とか福祉だけのことではなく、人生一般に必要なコンセプトだ。特に医療に関係のある介護の領域では、介護をする人はその道のプロであるが、介護を受ける人はもちろん誰もが初心者である。介護を受ける人にもそのされ方をコーチングし、心得てもらう必要があると言うのである。 上野千鶴子さんは、 平成31 年に東京大学の入学式で祝辞 が話題となった東大教授で、フェミニズムや「お一人様」の生き方などについて色々な本を書かれている。 さてその中で昔書かれた本「おひとり様の老後」という本で「介護される側の心得 10 か条」と言うのを書かれているそうである。その中のいくつかを紹介されていた。挙げられていたのは、 1.       自分にできることと自分にできないことの境界をわきまえる 2.       不必要な我慢や遠慮をしない 3.       何が気持ちよくて何が気持ち悪いかをはっきりと相手に伝える 4.       嬉しいこと、助かることをされたら喜びを素直に表現し、相手を褒める 5.       介護者の馴れ馴れしい言葉づかいや、子供扱いを拒否する 6.       介護してくれる相手に過剰な期待や依存をしない 7.       ユーモアと感謝を忘れない 患者を診る側としてもとても参考になるリストである。自分の思うことや、感じることをはっきりと言ってもらうこと。特に患者さんたちに馴れ馴れしい言葉づかいや、認知症の高齢者に子供あつかいするのは絶対に避けるべきだと思う。もちろん自分が患者になった時も忘れないようにと思う。 ちなみに書籍からの追加...

報告:大田区との合同災害訓練を実施しました と 「お金のお話」について

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  先日 11 月 30 日(土曜日)に大田区との合同災害訓練を実施しました。 DMAT 隊員の脳神経外科・加藤部長と 4 階西病棟・末永師長の差配で医師、看護師、薬剤師、技師、事務職など当院職員約 80 名と、大田区職員、大田区医師会の医師、地域の自治体ボランティアの方々約 50 名程度に参加いただき、千葉で震度6強の地震が発生したという災害を仮定しての訓練でした。当院の大田区の 6 万人の住民がいる大森、糀谷、羽田地区の周辺の救援から孤立しうる地域にあり、この地域の中心拠点として災害対応にあたるよう位置付けられています。 訓練開始後、病院院内から続々と報告される施設の被災状況は、断水、ガス停止、停電しており、通常電話回線もストップしており、病院機能はある程度保たれるが、通常診療は実施できないので、災害救急患者だけを受け入れられるというモード C の発令をしました。病院の患者の現状、院内患者の怪我、職員の怪我の状況の把握、さらに震度5強以上では全職員は病院に集合するという原則のもと、職員・その家族の安否も含めた職員登院状況の把握、その来院した医療人材の適所への差配を実施します。救急来院患者はボランティアの住民の方に、模擬患者( SP )をしていただき、病院前に設置した救護所でトリアージを実施、緑・黄・赤・黒ゾーンに患者を仕分け、途中で黄色から赤に変わる患者なども想定、患者の診断に基づいて、入院・手術・治療などの方法を検討しました。当院は ICU は6床、オペ室は急患対応は 3 件同時手術可能、 4 階西病棟は救急患者を 20 名まで収容できるので、そのキャパシティーに応じた急患受け入れ、開頭手術や骨折治療、消化器疾患の治療を実施するというシナリオで進めました。さらに近隣の医療機関からも緊急転院を受け入れるとい設定で、当日同時に災害訓練をしていた渡辺病院からの脳神経外科の意識のない患者などの転送を受け入れるというシミュレーションも行いました。かなり病院機能に負荷のかかる状況を模擬した設定でしたので、その間に様々な事象で「ここはどうするべきなのか?」などという案件が浮上してきました。全体での情報周知をどうすべきか、職員家族の被災や地域・日本の被災状況からの当院のできる対応とか、医師が足りない時には近隣の開業されている 医...

技能オリンピックと若き天才

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  技能オリンピックと若き天才 森田明夫 先日 NHK ラジオで寺島実郎さんだったと思いますが、世界 技能オリンピック のことを紹介していました。その中で、なんで日本のマスコミや国はこういった優れた若い人たちを讃えないのだろうと言っていました。 技能オリンピックというのは 1950 年にスペインでの第一回から始まった職業・産業技能を国際的に競いあう 2 年に一度開催されている大会だそうです。原則 22 歳までが参加資格(種目によってはもっと年長まで参加できるものもある)があって、我々の関連する料理、美容からホテルフロント・レストラン接客、貴金属加工、旋盤、再生可能エネルギー、その他工業技術など 40 数種類に及ぶ種目を競うそうである。基礎的な理論から実践までを点数づけして競うそうである。日本は第 11 回から参加し、金メダルや銀、銅メダルの数が世界3位くらいだった頃まではマスコミでも取り上げられたが、最近は成績が振るわないので、あまり取り上げてくれなくなったそうである。私もこのラジオで紹介されるまでは全く知らない催しでした。ただ今年リヨンで開催された大会では久しぶりに金メダルや上位入賞した若者が多くおり全体で5位の成績だったそうです。内容を見ると水の管理とか、磨き技術などあまり馴染みのない仕事も多いですが、このような若い人たちが頑張って日本の産業、国が栄えていることを知ってほしいというのが寺島さんのお話でした。この大会に出場するには、まずは日本の中で選考会があって、その中で選抜された人たちが大会に出場するそうです。今年見事入賞、メダルを取った人たちは こちら のようなリストです。 金メダルは産業機械(デンソー;清水源樹さん)、自動車板金(トヨタ自動車;小石さん)、美容・理容(クラルーム学院:濱吉さん)、車体塗装(トヨタ自動車:星野さん)、再生可能エネルギー(きんでん:郡安さん)の 5 名、そのほか銀メダルや銅メダル、敢闘賞などを取得した人たちが多勢います。帝国ホテル、日産、その他いろいろな会社や学校がバックアップして一生懸命若い人たちを育成しようとしているのがわかります。 ビデオなどもあるので、ぜひ一度ご覧いただくと良いと思います。また今年の日本全国大会は 11 月末に愛知であるそうで、また 国際五輪 ...

「論語と算盤」から

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  「論語と算盤」から            森田明夫     NTT 東日本関東病院の元院長落合慈 之先生(名誉院長)から渋沢栄一さんの書かれた現在ベストセラー?の「論語と算盤」という本を院長就任のお祝いにといただいた。渋沢さんといえば以前 NHK の大河ドラマ「青天を衝け!」の主人公だし、今回の新一万円札の顔である。ほとんどの時代劇ものの大河ドラマは見ているのだが、維新周辺は人間関係が複雑なのと、中高の歴史ではいつもそこまで届いていなかったので、あまりその頃の歴史に馴染みもなく見逃してしまった。また王子にある渋沢記念舘にも行ったことがないので、渋沢さんに関する私の知識は今回の一万円札になった経緯程度の常識的な範囲よりもやや劣る。     さて件の本であるが、一言で言えば、江戸―明治―大正と活躍した人の実業における道徳・身の処し方に関する考えを様々な事例をあげて書いている手記のような書籍である。幸い守屋淳さんという早稲田大学の先生が現代語に訳してまたその頃の事実関係なども注釈してくれているのでとても読みやすい本である。最初は「明治時代の考え方なんて、古いのだろうな。しゃちこばった格言的なものが多いのかな。」と思っていたのであるが、豈図らんや内容は今でも十分通用する考え方が中心である。産業はもちろん石炭などのエネルギーや綿花といったその頃の日本の内容に沿った内容だが、人の心や決断の成り立ちというのはほとんど変わっていないのだな。と思う。特に人と人の諍いや戦争、宗教に関する考え方など今でもその通りといった内容である。     なかなか重厚な本でもあるので、中身を全てこなして読み切れているわけではないのであるが、とてもなるほどと思ったのは:     人間の生き方・心のあり方において非常に重要な要素は「智・情・意」であるという考えかたについてである。知識や経験だけでもだめ、情熱や情愛だけでも物事は進まない、そして最後に意思・意志・志が最後に人を動かす元になるというものである。  ...

韓国医療界の今

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       韓国医療界の今        東京労災病院 森田明夫               先日韓国で脳神経外科の脳血管障害と脊髄・脊椎疾患の国際学会が連日であり、両方に招待されたので、約8年ぶりに韓国ソウルを訪ねた。韓国の脳神経外科は血管障害も脊髄も日本に追いつけというよりも、目は欧米を見ており、とても進んでいる。脊椎のロボット手術は日本では保険償還がないためほとんど進んでいないが、韓国では Yonsei 大学やソウル国立大学かなりの施設が導入している。人口がソウルとその周辺の大田などにかなり集中(全人口の 1/2 位)しているので、大病院に集中するという傾向が強く、日本のように数百床規模の病院が乱立ということはなく、欧米型の数千床規模の病院に集約した医療を行っている。大学の教授も同じ脳外科でもたくさんいて、血管障害や腫瘍、脊髄、小児などそれぞれの専門家が集団を作っており科の主任教授は 2 年〜数年に一回ずつ交代してゆくというシステムである。お年の先生も含めて、英語がとても上手で、脊髄・脊椎の学会は国内の学会も含めて、全て英語で進められていた。ほとんどの先生が欧米への留学経験がありあまり言葉に困ることはないらしい。        さて、今回の学会では、会長講演の代わりに現在韓国の医療界には激震が走っているという内容の特別公演があった。ユン現大統領及び韓国の厚生省が医学生募集定員を今の年間40医学部 3000 人強から(日本は82校で約9000人)2 000 人増員するすなわち今の 1.6 倍の人が医師になるという政策を打ち出し、医学部や医師会などの医療界には相談せず決めてしまったのである。その理由は日本と同様の医療の偏在、医師の診療科の偏りである。日本でも今非常に問題になっているのが、美容外科に大学医局や外科を経ずなる人たちが増えていること。よく知られている通り韓国は美容外科が古くから有名であり、外科や救急、小児、産婦人科など...