投稿

技能オリンピックと若き天才

イメージ
  技能オリンピックと若き天才 森田明夫 先日 NHK ラジオで寺島実郎さんだったと思いますが、世界 技能オリンピック のことを紹介していました。その中で、なんで日本のマスコミや国はこういった優れた若い人たちを讃えないのだろうと言っていました。 技能オリンピックというのは 1950 年にスペインでの第一回から始まった職業・産業技能を国際的に競いあう 2 年に一度開催されている大会だそうです。原則 22 歳までが参加資格(種目によってはもっと年長まで参加できるものもある)があって、我々の関連する料理、美容からホテルフロント・レストラン接客、貴金属加工、旋盤、再生可能エネルギー、その他工業技術など 40 数種類に及ぶ種目を競うそうである。基礎的な理論から実践までを点数づけして競うそうである。日本は第 11 回から参加し、金メダルや銀、銅メダルの数が世界3位くらいだった頃まではマスコミでも取り上げられたが、最近は成績が振るわないので、あまり取り上げてくれなくなったそうである。私もこのラジオで紹介されるまでは全く知らない催しでした。ただ今年リヨンで開催された大会では久しぶりに金メダルや上位入賞した若者が多くおり全体で5位の成績だったそうです。内容を見ると水の管理とか、磨き技術などあまり馴染みのない仕事も多いですが、このような若い人たちが頑張って日本の産業、国が栄えていることを知ってほしいというのが寺島さんのお話でした。この大会に出場するには、まずは日本の中で選考会があって、その中で選抜された人たちが大会に出場するそうです。今年見事入賞、メダルを取った人たちは こちら のようなリストです。 金メダルは産業機械(デンソー;清水源樹さん)、自動車板金(トヨタ自動車;小石さん)、美容・理容(クラルーム学院:濱吉さん)、車体塗装(トヨタ自動車:星野さん)、再生可能エネルギー(きんでん:郡安さん)の 5 名、そのほか銀メダルや銅メダル、敢闘賞などを取得した人たちが多勢います。帝国ホテル、日産、その他いろいろな会社や学校がバックアップして一生懸命若い人たちを育成しようとしているのがわかります。 ビデオなどもあるので、ぜひ一度ご覧いただくと良いと思います。また今年の日本全国大会は 11 月末に愛知であるそうで、また 国際五輪 の202

「論語と算盤」から

イメージ
  「論語と算盤」から            森田明夫     NTT 東日本関東病院の元院長落合慈 之先生(名誉院長)から渋沢栄一さんの書かれた現在ベストセラー?の「論語と算盤」という本を院長就任のお祝いにといただいた。渋沢さんといえば以前 NHK の大河ドラマ「青天を衝け!」の主人公だし、今回の新一万円札の顔である。ほとんどの時代劇ものの大河ドラマは見ているのだが、維新周辺は人間関係が複雑なのと、中高の歴史ではいつもそこまで届いていなかったので、あまりその頃の歴史に馴染みもなく見逃してしまった。また王子にある渋沢記念舘にも行ったことがないので、渋沢さんに関する私の知識は今回の一万円札になった経緯程度の常識的な範囲よりもやや劣る。     さて件の本であるが、一言で言えば、江戸―明治―大正と活躍した人の実業における道徳・身の処し方に関する考えを様々な事例をあげて書いている手記のような書籍である。幸い守屋淳さんという早稲田大学の先生が現代語に訳してまたその頃の事実関係なども注釈してくれているのでとても読みやすい本である。最初は「明治時代の考え方なんて、古いのだろうな。しゃちこばった格言的なものが多いのかな。」と思っていたのであるが、豈図らんや内容は今でも十分通用する考え方が中心である。産業はもちろん石炭などのエネルギーや綿花といったその頃の日本の内容に沿った内容だが、人の心や決断の成り立ちというのはほとんど変わっていないのだな。と思う。特に人と人の諍いや戦争、宗教に関する考え方など今でもその通りといった内容である。     なかなか重厚な本でもあるので、中身を全てこなして読み切れているわけではないのであるが、とてもなるほどと思ったのは:     人間の生き方・心のあり方において非常に重要な要素は「智・情・意」であるという考えかたについてである。知識や経験だけでもだめ、情熱や情愛だけでも物事は進まない、そして最後に意思・意志・志が最後に人を動かす元になるというものである。     古来孔子の教えから人の生き方には五常が大切であると言われている。「仁・義・礼・ 智・信」の5つである。それに「忠・ 孝・悌」が加わって八徳とも言われる。少し組み合わせが異なるものもあるようだが、この8つは南総里見八剣伝の義士たちが持

韓国医療界の今

イメージ
       韓国医療界の今        東京労災病院 森田明夫               先日韓国で脳神経外科の脳血管障害と脊髄・脊椎疾患の国際学会が連日であり、両方に招待されたので、約8年ぶりに韓国ソウルを訪ねた。韓国の脳神経外科は血管障害も脊髄も日本に追いつけというよりも、目は欧米を見ており、とても進んでいる。脊椎のロボット手術は日本では保険償還がないためほとんど進んでいないが、韓国では Yonsei 大学やソウル国立大学かなりの施設が導入している。人口がソウルとその周辺の大田などにかなり集中(全人口の 1/2 位)しているので、大病院に集中するという傾向が強く、日本のように数百床規模の病院が乱立ということはなく、欧米型の数千床規模の病院に集約した医療を行っている。大学の教授も同じ脳外科でもたくさんいて、血管障害や腫瘍、脊髄、小児などそれぞれの専門家が集団を作っており科の主任教授は 2 年〜数年に一回ずつ交代してゆくというシステムである。お年の先生も含めて、英語がとても上手で、脊髄・脊椎の学会は国内の学会も含めて、全て英語で進められていた。ほとんどの先生が欧米への留学経験がありあまり言葉に困ることはないらしい。        さて、今回の学会では、会長講演の代わりに現在韓国の医療界には激震が走っているという内容の特別公演があった。ユン現大統領及び韓国の厚生省が医学生募集定員を今の年間40医学部 3000 人強から(日本は82校で約9000人)2 000 人増員するすなわち今の 1.6 倍の人が医師になるという政策を打ち出し、医学部や医師会などの医療界には相談せず決めてしまったのである。その理由は日本と同様の医療の偏在、医師の診療科の偏りである。日本でも今非常に問題になっているのが、美容外科に大学医局や外科を経ずなる人たちが増えていること。よく知られている通り韓国は美容外科が古くから有名であり、外科や救急、小児、産婦人科などエッセンシャルな医療に必要な診療科を選ぶ医師が日本よりも少なくなってしまっている。当然医師や医学部学生は猛反発し、現在医学生の75 % (14,000人)が休学中、研修・専攻医は 80%(約10,000人) が仕事ボイコットから始まって、退職してしまったそうである。ストライキどころか退職

医療連携懇話会を開催しました

イメージ
       さる 7 月 31 日に東京労災病院医療連携懇話会 2024 を西蒲田のプラザアペアで開催しました。 53 連携医療機関の関係者 93 名に出席していただき、とても和やかな雰囲気で開催することができました。当日は突然の豪雨で京浜東北線が止まってしまうなどということがありましたが、ほぼ予定通りのご出席をいただきました。 大変お忙しい中、また足元の悪い中、ご出席いただいた方々に感謝いたします。 自分がまずスライドを使って当院の 75 周年、これからの当院の1つの目標に向かった3つの対策についてお話させていただき、その後診療科紹介として呼吸器センター、消化器外科、脳神経外科・脳卒中センターについて、各科部長(穴見、小林、加藤部長)にお話いただきました。      引き続いて懇親の部では、大森医師会の水野会長、田園調布医師会の内山会長、蒲田医師会の前前会長である熊谷先生に一言ご挨拶をいただき、新井副院長の発生で会を開催しました。多くの先生方とご挨拶させていただき実りの多い会であったと思います。 医事課や医療連携室、その他事務の人たちや関係者の努力に頭が下がります。 私の当院紹介 や各科の紹介は時間を見て Youtube で紹介させていただこうと思います。 地域医療機関との連携は、病院の活力を維持するためにとても大事であることをつくづく感じています。趣向を変えて、介護施設や歯科・薬剤、在宅医療の先生方とも新たな連携の会を開催することも検討しています。 病院が地域に開かれた施設となるよう努力をしてゆこうと思います。   以上、先日の会の報告でした。 今は夜間から早朝にかけては、連日のオリンピック@パリでの日本人の活躍が素晴らしいですね。一方でぜひ勝ってほしかった池江さん、阿部詩さん、江村美咲さんが期待されていて結果が出せなかったのは、本当に心が痛いくらいでした。色々コメントが載せられていましたが、池江さんのコメントが最も心に刺さりました。 「なんのために今日まで頑張ってきたのだろうと、そういう気持ちです。」 絶対そんなことはないと思います。彼女がオリンピック代表の座を勝ち取った時、あの痩せた姿で筋トレを頑張っている姿が、思い出されて私ですら泣きました。多分日本中の病気で苦しむ人たちにも

余生とはいつからをいう蝉時雨

イメージ
  余生とはいつからをいう蝉時雨 森田明夫   先日 NHK ラジオ深夜便で、薮光生さんという全国和菓子協会の専務理事の方を交えての「わたし終 ( じま ) いの極意(和菓子で心の栄養を)」と題した番組があった。私は元々甘いものをそんなに食べないので、「和菓子か〜〜〜」という気持ちで半分寝ながら(朝4時台の番組なので)聞いていたのだが、内容がすごくてどんどん目が覚めてきてしまった。もしこの話をもう一度聞けるのであれば聞きたいくらいである。 薮さんは元々建築業界にいたが、会社が潰れてしまって、ゆっくりしようかと思っていたところ彼が以前書いた業界再建の文章が、和菓子協会の虎屋の社長さんたちの目に止まって、和菓子業界の再建を望まれ請われて今の役職についたとのことである。全く違う領域の再建を願われるのだからものすごく勉強したと思うが、本当に凄まじい行動力である。和菓子の原料である豆や砂糖のことの知識を突き詰め、毎日毎日餡を作って家族で食べたそうである。 薮さんの和菓子関係の書籍には豆や砂糖と日本、世界の食文化に関する知識も豊富に書かれている。豆が好きな人にはたまらない。   さて番組の内容であるが、非常にうとうとと聞いていたので断片的なのはご容赦いただきたい。 まず年齢が 80 歳越えであるが、声の張りと話の内容がすごい。日々努力しているんだろうな、、という感じだ。 建築業界から和菓子の業界のトップの上り詰めるのに、何が大切だったかというと、「いつも興味を失わないこと」と「なぜを繰り返すこと」だそうである。なぜそうする、なぜそこでこうする、、、と質問攻めにする。和菓子の専門家の説明でも彼は質問攻めにするので、「薮さんの質問は後にして」 とよく言われたそうである。 私ども業界の手術に関しても、今までは「見て盗め」と言われていたが、何故そうするのか?を質問することが、技の知識化の重要とされる。先日聞いた学会発表で神戸大学の先生が専攻 医の先生に全ての 手術で3つの質問を考えておくようにしていて、手術後にそのことを復習しているそうである。 AAR( アフター アクション レビュー ) という目標を達成するための改善法だそうである。何故をもつことが脳神経外科の手術を学ぶ上での重要だということである。薮さんはそれを昔

自分を作るための"3**"という時間

イメージ
      自分を作るための“ 3**” という時間                                                              東京労災病院 森田明夫     今回の文章は、脳神経ジャーナルという脳外科雑誌の「温故創新」というコラムに寄稿したものを改変したものです。            近年の AI の発展は目覚ましいものがあります。特に 2022 年初頭からの生成 AI Chat GPT の公開以来 「これはどうなってしまうの?」という勢いです。たとえば頭蓋底外科の訓練はどうすれば良いか?などという質問( プロンプト という)を投げかけると、ほぼ即座にごく真っ当な、どこかの学会の重鎮が述べるような項目がかなりたくさん提案されます。当初は日本語版は誤りが多く英語版の方が真っ当な答えを出してくれる状況でしたが、そろそろ言語差は無くなってきたようです。学位論文提出で AI 使われたらばどうする?選挙で候補者と全く同じ声・アクセントで偽情報が作れてしまう。漫画やものすごくあり得ない「冬の雪の京都に桜が舞う」なんていう紛れもない写真のような画像も瞬時に作れてしまいます。 ADOBEのFireflyというソフトで作った 桜の咲くスイスの街、雪の京都に桜が咲く絵2種(富士山まで!)         このような進歩に我々はどう対処すれば良いのでしょうか?人間の脳と AI の違いは何か?などとつらつら考えます。最近思うのは人間には“ 3**” という時間が必要なことです。 AI はかなりの難問でも適切な質問や依頼条件をだせば瞬時に情報をかき集めてまとめてくれますが、人間には時間とその時間費やした労力が必要だとうことです。       “ 3 日坊主”という言葉があります。物事の修練を始めて、または面白いことに興味を持っても 3 日以上その興味が持たないと、人間にはまともにその事例への愛着というか、習慣ができない:という意味なのだろうと思います。なぜ 3 日なのか?を考えると多分脳の記憶回路や小脳と大脳連携のシナプス構築に 3 日間くらいの時間を要するのではないかと、昔からの経験をもとに古人が見出したのだろうと思う。本当にそうだなと思う。私もつい先日俳句でも始めようかと、俳句指南