2025年3月12日水曜日

中学生に伝えたいこと

 

中学生に伝えたいこと    森田明夫

                 

   先日、近隣の大田区立大森第一中学校3年生・卒業間近の70名余りの生徒さんたちに講演させてもらう機会を得ました。これは昨年4月に大森一中を訪問して約1年越しで叶えられたイベントでした。私は大学では教鞭を取れましたが、教員免許は持っていないので、小学校・中学・高校では正式な講義はできないのです。そこで道徳の時間を使って、体育館で講演という運びとなりました。

    何を話そうかかなり悩みました。ChatGPTに中学3年生が喜びそうな話題は?と聞いたらゲームや恋愛、SNSなど楽しいことをたくさんあげてくれましたが、どうも私の範疇ではありません。そこで、いつも大学で低学年にも話していた脳の機能や手術の紹介、それと夢を持って生きて欲しいということを中心にお話ししました。脳の手術はリアルな画像も入りますし気持ち悪くなる生徒さんもいると思いましたので、写す前に気持ち悪くなりそうなら目を瞑ってくださいとお話ししていましたが、最近はかなり医療ドラマも多く、実際の手術の場面なども出てくるので、そういう子達はほとんどいなかったように思います。頭蓋骨をドリルで切り取るところなどは前のめりに見てくれたようです。最後に質問で、これまでに最も大変だった手術はどんな手術でしたか?などという質問も出たくらいです。

    さてその中では、脳はとても脆弱な器官なので、だから頭蓋骨という厚い骨で覆われていること。お豆腐のように水の中に浮かんで保存されていること。だから自転車ではヘルメットをしようというお話しをしました。

    次に、人間の脳とAIとの違いで最も際立つのは感情と理性・判断のところで、その行き着く先が「夢を持つこと」だと ちょっとこじつけのような話に繋げました。AIも夢を見ることがあるかもしれませんが、自分固有の体を持たないAIは自分を大事にして、その個体がかなえるものを望むことは余りないのではないかと思うのです。だから皆んなは自分を大切にして、夢を持って、できれば志くらい強い意志を持ってかなえる努力をしてほしいというお話ししました。

    そして、夢をかなえるために必要なこととして、大谷翔平君がやっていた、曼荼羅チャートを紹介しました。彼の16歳時の目標は8球団のドラ1指名でした。そしてそれをかなえるために8つの努力(体や野球に関することとして、体づくり、コントロール、きれ、スピード、変化球、そして人間性の面の向上のためのメンタル、人間性、運)を挙げていました。運っていうのは努力で掴むもの、と思っている人は自分も含めて少なく、神頼みと思って神社やお寺でお祈りするのがせいぜいと思いがちでしょうが、彼の場合は運を掴むための8つの努力として挨拶、ゴミ拾い、部屋掃除、審判さんへの態度、本を読む、応援される人間になる、プラス思考、そして道具を大切に使う をあげています。今彼がよくしていることですね。彼はその変更バーションをいくつも作って、細々した目標の設定は色々その時その時に応じて変更していました。素敵な人生です。このことについては以前日本医科大学の部長の時にブログに書いています。こんな人だから、彼は変な死に方はしないだろうなと今から思います。

 

    さて、そのようなことの中で、夢をかなえるために必要なこととして、人との出会いを大切にすること。好きであること。興味を持つこと。諦めないこと。巡ってきた幸運を逃さないよう見張っていること。などを挙げました。私の場合、特に福島先生Sundt先生、父・母、多くの指導してくれた先生たち、たくさんの刺激を与えてくれた友たちが、今の私を作っていると思うことも紹介しました。

    特にその中で大切なのが、SERENDIPITY。こちらも数回前述ブログの一つに紹介しました。米国脳外科医のSpetzler先生がコロナの最中に金沢で開催された学会で、web越しに日本の脳外科医師向けにお話しされた中で最も大切にされていることです。色々なことに出会うこと。その時につまらないと思っても、突き詰めて興味を持って見ること、その中に何か変わったもの、将来大切になるものが隠されているかもしれないこと。その場でChat GPTを操作して、GPT君がいうことも見せて挙げました。チャンスの前髪を掴むことです。タイパ、コスパと言って色々な無駄と思われるものを省いてしまうと、大事なことを見逃し、経験するチャンスを逃してしまうと思うのです。

    ChatGPTでのSERENDIPITYの例は、青黴から発見されたペニシリン、つけそうもない粘着力の弱い糊から作られたPost ItX線の発見や、パイ生地を忘れてできたタルトタタンなどが紹介されています。ある先生は、Serendipityとは干し草の中で針を探そうとしていたら綺麗な村娘に出会ってしまうようなもの。。という表現もされていました。

    そして最後に諦めない強さ:GRITのことを紹介しました。アンジェラダックウオースさんが提唱したいわゆるレジリエンスの強さの指標です。日本語で言えば挫けない心の強さでしょうか?私の日本医科大学での最後合同カンファランスでもこのことをお話ししました。

    後で大森一中の渡辺校長先生からGRITのことをご存知なかったので、今後ご自分の話でも使わせていただくというコメントもいただきました。

    少しはためになったかな。と思う1日でした。

   

雑談:

最近、牧田総合病院脳神経外科の朝本先生から学会で講演されたり、メールなどでも色々情報をいただくのですが、SDGsを本気でとりくまないと世界は大変なことになると考えるようになった今日この頃です。米国のトランプ大統領はほぼ逆行することをしようとしていますが、みなさんご存知のプラスチックごみによる海洋汚染はもちろんのこと、人の脳にまでマイクロ・ナノプラスチックが溜まってしまっており、その所見のある患者さんはより重症となっていることがデータで示されているのです。日本の状況も知りたいので、当院や日本医科大学でも脳卒中・脳神経外科関連でこのような研究を始めてもらうようにお願いしているところです。ご覧になった方も多いと思いますが、NHKのクローズアップ現代でこの状況紹介されており富士山の山頂の大気の中にもマイクロプラスチェックが検出されているとのことです。朝本先生からの情報では、ドイツやヨーロッパではポリレジ袋は20年以上前から有料だし、台湾の癌学会ではプラスチックや紙コップでの飲料の提供をやめて、再利用できる折りたたみ携帯コップを配布して、10000個のコップ廃棄を減らす試みをしているそうです。日本ではまだまだそういったことは始まっていませんね。。時々車でレジ袋が飛ばされて舞っているのを見るとゆくゆくはあれが自分の脳に溜まるのか、、と思うようになっています。できれば、色々なことを皆で推し進めていければと思います。

ちなみに2月はこの10数年のうち始めてブログをスキップしてしまいましたが、福山市の小学校向けで、一般社団法人A&Aが進めている「トイレきれいプロジェクト」で小学生向けにビデオメッセージをお届けしました。

   

 

 

    写真:

    大森一中の講演の様子

    


   大森一中の生徒さんや大森第四小学校の生徒さんたちが描いてくれた病院に展示中の絵



 

    Chat GPTの描くSERENDIPITYのイメージ

 


    GRITの基本コンセプト

    SKILLTELENTと努力で成り立ちACHIEVEMENTSKILLと努力で達成される。

    


 

    私の夢1

今の病院をたくさんの子どもやご老人たちが集まれる賑やかな場所にすること

それをコアに近隣の人たちの健康や安全を育むこと 描画 by ChatGPT


 

    私の夢2:70歳を過ぎたら、風光明媚なところで美味しいイノベーティブな料理を美味しいワインやお酒と共に提供するビストロを開くこと(本当に夢) 描画by Chat GPT

 


動画:一般社団法人A&Aのトイレきれいプロジェクトに賛同して


 

2025年3月1日土曜日

2月の風景

 

20252月の風景

                        院長 森田明夫

10数年欠かさず続けてきたブログを20252月には失念してしまいました。それくらい公私共に色々な行事が目白押しだった、、のです。。と言い訳。労災病院院長として病院の昨年度の業績に基づいて、将来の方向性を示すことを労働者健康安全機構本部でこの時期にしないといけないのです。当院は2024年に整形外科の事件後の撤退や腎臓内科の縮小、眼科の非常勤化など様々な要件がかさなってしまい極めて厳しい経営状況を続けています。それでも脳神経外科や呼吸器外科、泌尿器科など昨年度の50%超となる収益増となっている診療科もあり、ほとんど診療科がプラスなのですが、整形外科が当院の収入の16%を叩き出していましたので、なかなかそのギャップを埋めることはできませんでした。20254月からは、整形外科の7名(10月から増員予定)での復活、眼科の常勤化、また腎臓内科も常勤3名体制に戻ることができます。残念ながら稼働率の低迷から一病棟を一旦休床とする決断をせざるを得ませんでしたが、なんとか近いうちに復活を遂げたいと思っています。

当院には「命の輝きを共有できる病院」という以前からの理念があります。その上で、再度当院のMISSIONVISIONは下記であることを職員に徹底しています。

MISSION

       地域の住民・勤労者の健康と安全を守る

VISION

       働くことに誇りを持てる病院となる

       地域に信頼される病院となる

 

その他挙げた当院の課題と対策は

1)         診療の強化 断らない救急・医療連携の徹底と基礎診療科のほかに売りの診療科を作ること ひっきりなしの連携医療機関訪問・救急隊との連携強化

2)         医療事務の迅速化・強化

3)         開かれた病院・病院刷新プロジェクトの始動

4)         SNSWEB対策の強化

5)         患者満足度の向上を目指す 特に待ち時間対策と接遇対策

6)         職員満足度、一体感の向上を目指す 対話プロジェクトの始動 院長メッセージの毎月伝達と月標語の掲示

7)         競合病院とのWIN WINの連携関係の構築

などです。掲げた以上今年中になんとか改善してゆかねばなりません。

さらに2026年には病院機能評価3rd G Ver.1の受審が迫っています。病院の機能・安全管理の徹底も向上しつつ、病院の質と信頼の回復に努めなければなりません。

1年後2年後にこの病院がどのような変革を遂げられるかは、一緒に働いてくれている職員680名と様々な助言をくれる友や指導者たちの意思と意欲にかかっていると考えています。

なんとか皆さんの後押しをしっかりしてゆこうと思います。

 

雑談と写真:

ストレスフルな2月初旬を経て、真ん中の休みに超格安航空チケットで弾丸宮古島ツアーをしてきました。

雨・風・低温と南の島らしからぬ気候で、どんよりな旅でしたが、伊良部島の不思議な佐和田の浜の前にたつ滞在型のビラはとても素敵でした。また同じく伊良部島になかゆくい商店というこの片田舎で珍しく行列ができているお店があり、ラーメンかと思いきや、紅芋ばんぴんというサーターアンダギーのお店でした。これが、ものすごく美味しい!いつも茶色のしっかりした衣の中は宝石のような紫色で、甘さもしっとり感も最高でした。

 

伊良部島佐和田浜の前のリゾート 温水プールで雨の中ひと泳ぎ

 


宮古島の食事(外食と自炊)島おでんたからのふーチャンプルー最高でした。また国仲商店のモーニングセット、harry's ガーリックシュリンプと自炊ステーキ

 


宮古島の風景 アダンの道(田中一村の世界の景色でした)とまもる君と伊良部大橋長さは珊瑚礁だそう(3540m)

 


なかゆくい商店の紅芋ばんぴん すごく美味しい!!!し中身が宝石のように綺麗。


2025年1月23日木曜日

2025年1月13日月曜日

受援力

 

「受援力」

森田明夫

1/12(日)NHKラジオのアサいちのマイボイスで東大の上野千鶴子さんが「受援力」の話をしていた。聞きなれない言葉だが、援助を受ける力(能力・コツのようなもの)のことである。介護とか福祉だけのことではなく、人生一般に必要なコンセプトだ。特に医療に関係のある介護の領域では、介護をする人はその道のプロであるが、介護を受ける人はもちろん誰もが初心者である。介護を受ける人にもそのされ方をコーチングし、心得てもらう必要があると言うのである。

上野千鶴子さんは、平成31年に東京大学の入学式で祝辞が話題となった東大教授で、フェミニズムや「お一人様」の生き方などについて色々な本を書かれている。

さてその中で昔書かれた本「おひとり様の老後」という本で「介護される側の心得10か条」と言うのを書かれているそうである。その中のいくつかを紹介されていた。挙げられていたのは、

1.      自分にできることと自分にできないことの境界をわきまえる

2.      不必要な我慢や遠慮をしない

3.      何が気持ちよくて何が気持ち悪いかをはっきりと相手に伝える

4.      嬉しいこと、助かることをされたら喜びを素直に表現し、相手を褒める

5.      介護者の馴れ馴れしい言葉づかいや、子供扱いを拒否する

6.      介護してくれる相手に過剰な期待や依存をしない

7.      ユーモアと感謝を忘れない

患者を診る側としてもとても参考になるリストである。自分の思うことや、感じることをはっきりと言ってもらうこと。特に患者さんたちに馴れ馴れしい言葉づかいや、認知症の高齢者に子供あつかいするのは絶対に避けるべきだと思う。もちろん自分が患者になった時も忘れないようにと思う。

ちなみに書籍からの追加項目は下記の3つです。

1. 自分ココロとカラダの感覚に忠実かつ敏感になる

2.  相手が受け入れやすい言い方を選ぶ

3. 報酬は正規の料金で決済し、チップやモノを与えない

である!

 

「障害者にとって自立とは、依存先の分散である」という言葉の紹介もあった。だれか特定の人や個人に依存してしまうと、その依存された人の負担が大きく、また頼る方も精神的な依存度も高くなってしまう。多くの人に、細かく依存をすることで、一人一人への依存度は低くなり、障害者も気持ちが軽くなるというのである。そのためにはそうできる社会を作っていかないとならないと感じる。

 

そして最も「受援力」のない人たちは高齢男性だそうである。特に男性は自分が困っていることや弱っていることを言い出せない。また奥さんに日常からかなり頼り切っているのに(家事とか料理とか、奥さんがするのが当たり前だと思っている)、頼っていることに気づいていない。自分は誰にも頼っていないと思い込んでいるそうである。

高齢男性が、一人になった時、「僕寂しんです。」と言えるようになることが大事だそうである。

高齢女性にとってはお一人様よりもお二人様でいることの方が生命リスクが高いそうである。奥さんが弱ってしまっても、ご主人が「デイケアなんて行く必要ない」とか言ってしまうそうである。なので、女性はおひとり様の方が長生きできるそうである。「男は黙ってサッポロビール」なんて困ったものです。奥さんへの日頃の感謝を忘れないようにしましょう。

 

雑談:

年末に和歌山に行ってきました。和歌山には、これまで学会で2回、旅行で子供の頃と、熊野古道が世界遺産登録された頃に行ったことがありました。みなさん和歌山っていうと何を思い浮かべるでしょうか?みかんと梅干しでしょうか?歴史の好きな人であれば、紀州藩のこと(和歌山城はとても立派なお城です)。徳川吉宗のこと。和歌山の名前の元となった、和歌の浦のこと(元々は若の浦とよなれていましたが、よく和歌が読まれたことからそうなったと言われます)。秀吉が城を築いた際に海側に和歌の浦があるので和歌山と呼んだそうである。外科医であれば、その元祖といわれる華岡青洲が活躍した地でもある。小説が好きであれば、「紀の川」と言う有吉佐和子の自伝的小説があります。雄大な紀の川が吉野から流れています。そして奈良との県境近くには高野山があります。比叡山と並ぶ日本の仏教の2大本山です。比叡山ほどアクセスが良くないので、おとづれたことがある人は少ないようです。私も今回初めてその一部(全部回るにはまる二日くらい必要です)をお参りました。和歌山は大阪から1時間特急でかかります。ちょっと時間がかかるのですが、和歌山も大きな都市ではなく、とても自然が豊富なところです。星空がとても綺麗です。めはり寿司とかクエとか、食べ物もとても美味しいので、機会があれば行ってみてください。ところで「秘密のケンミンショー」では取り上げられたことが最も少ない県の一つ(最下位は神奈川県)で、今ひとつ発信力が少ないようです。そういえば、今国内の観光地はどこでもいっぱいの外国人も、和歌山にはほとんどいませんでした。 

 

写真:

丹生都比売神社 高野山の麓の天野という集落にある世界遺産の一つの神社です。もともと高野山一帯はこの神社の境内で、空海がこの神社の許しを得て高野山を開いたと言われています。奥には修験者の祠や石碑などがあります。

 


 

高野山・紀伊の内陸の朝はとても冷えます。夜は星がものすごく綺麗です。

麓から40分くらい葛折の道を登ると高野山の一帯に到達します。大門に迎えられ壇上伽藍、金剛峯寺、奥之院へと続きます。今回は前半のみで、後半は宿坊に泊まってお邪魔しようと思います。高野山まで登ると一面雪で、堂の中はとても冷たいです。

 


 

2024年12月6日金曜日

報告:大田区との合同災害訓練を実施しました と 「お金のお話」について

 

先日1130日(土曜日)に大田区との合同災害訓練を実施しました。DMAT隊員の脳神経外科・加藤部長と4階西病棟・末永師長の差配で医師、看護師、薬剤師、技師、事務職など当院職員約80名と、大田区職員、大田区医師会の医師、地域の自治体ボランティアの方々約50名程度に参加いただき、千葉で震度6強の地震が発生したという災害を仮定しての訓練でした。当院の大田区の6万人の住民がいる大森、糀谷、羽田地区の周辺の救援から孤立しうる地域にあり、この地域の中心拠点として災害対応にあたるよう位置付けられています。

訓練開始後、病院院内から続々と報告される施設の被災状況は、断水、ガス停止、停電しており、通常電話回線もストップしており、病院機能はある程度保たれるが、通常診療は実施できないので、災害救急患者だけを受け入れられるというモードCの発令をしました。病院の患者の現状、院内患者の怪我、職員の怪我の状況の把握、さらに震度5強以上では全職員は病院に集合するという原則のもと、職員・その家族の安否も含めた職員登院状況の把握、その来院した医療人材の適所への差配を実施します。救急来院患者はボランティアの住民の方に、模擬患者(SP)をしていただき、病院前に設置した救護所でトリアージを実施、緑・黄・赤・黒ゾーンに患者を仕分け、途中で黄色から赤に変わる患者なども想定、患者の診断に基づいて、入院・手術・治療などの方法を検討しました。当院はICUは6床、オペ室は急患対応は3件同時手術可能、4階西病棟は救急患者を20名まで収容できるので、そのキャパシティーに応じた急患受け入れ、開頭手術や骨折治療、消化器疾患の治療を実施するというシナリオで進めました。さらに近隣の医療機関からも緊急転院を受け入れるとい設定で、当日同時に災害訓練をしていた渡辺病院からの脳神経外科の意識のない患者などの転送を受け入れるというシミュレーションも行いました。かなり病院機能に負荷のかかる状況を模擬した設定でしたので、その間に様々な事象で「ここはどうするべきなのか?」などという案件が浮上してきました。全体での情報周知をどうすべきか、職員家族の被災や地域・日本の被災状況からの当院のできる対応とか、医師が足りない時には近隣の開業されている医師に応援を頼む、また当院で対応しきれない患者数の場合、軽傷・中等症であれば、近隣の中規模病院への逆転送などという案件も課題として提案されました。あらかじめ地域の医療機関とはそのような連携を組んでおく必要があると思いました。

また地域にはけがや病気でなくても被災して自宅に住めない人も、また病人を家に抱える住民もいらっしゃると思います。当院へそのような被災住民がいらした場合にも、広く住民を受け入れて保護するという基本方針も確認しました。病院には幸い食料や水の備蓄が全患者(400名入院)、職員(680名)の3日分の備蓄があります。また東京都の連携で災害拠点病院として医療ガスや非常発電に必要な重油なども優先して提供されることになっています。そのような当院の災害拠点としての役割を再認識しましたし、当院のインフラがどのように管理されているのかも知ることができました。通常診療を実施していく際には気づかない様々な課題をあぶり出すことができました。

今年の1月には能登で大地震、翌日には羽田で旅客機が衝突・火災となるという事象が発生しました。災害や事故はいつ起きるかわかりません。特に後者ではJALCAさんの的確な指示と、乗客の素早く整然とした行動がJAL機では一人も怪我人や被災者を出さなかったという奇跡が起きました。これは日頃の災害・事故時の訓練によって、いつ何が起こっても対応できるという心構えとスキルが身についているのだと思います。我々、医療機関においてもそのような対応がマニュアル無しでもできるように、訓練を実施し、各構成員が自覚を持ってスキルと心構えを持ってゆきたいと思います。

さらに病院の体制が災害拠点としての役割を十分果たせるように人材・設備を責任を持って充足して行かねばならないことを私の役割として再認識しました。

 

雑談:さて雑談ですが、ちょっと重たい話です。先日母校で医学開成会という集まりがあり150名ほどの開成卒の医師の先生が集まりました。その会でMONEXグループのCEOの松本大さんが、今の日本や世界の置かれている経済的状況、そして医療や人材のあるべき姿を松本さんの視点からの意見を話してくれました。まず驚いたのが米国や日本ではコロナの前後で、コロナ前に総発行されたお金とコロナ後に刷られたお金がほぼ同じだというのです。といいうことはお金の価値は半額になるはずです。ですので米国では物価や給与がものすごく上がっているのです。給与など数倍になっていると言います。アパートの家賃など大都市では1LDK40万円以上です。私の後輩の留学を志しているものもヒイヒイ言ってます。また金が昨年から100%以上値上がりしている(倍になっている;実際コロナ前からでは数倍になっています)のもそのためです。一方で為替レートはそれほど変わっていないのに、日本の給与や物価はどうでしょう?数%の変化でしょうか?欧米からの輸入に頼っている物以外の日本の物価の超低さが際立っています。またこれからの社会、もちろんAIの役割と導入が重要となってきます。米国・シリコンバレーでは企業が数100兆円の予算をAIの開発に投入しているようです。一方日本は先日政府が数兆円をAI に投資するという報道がありました。この数字を見ても企業レベルで数100兆円を支出できるのに、日本では国家レベルでもその100分の1です。日本のこの地盤沈下はどうしてでしょうか?松本さんの持論は、日本や開成学園では個人レベル(患者単位)でしか社会に貢献できない医師に優秀な人材が行きすぎている。エンジニアにもっと多くの優秀な人たちがゆくべきだ!とうことでした。確かに開成の上位100名(400人中)のうち70%は医学部志望でしょうか?政府にも多くの開成学園出身者がいますが、(先の岸田首相(同級生です)を含め、多くの官僚がいます)国の発展、インフラに大きく寄与するのはエンジニアだというのです。とくにITの関連での日本の凋落は優れたエンジニアの欠乏があると言われます。しかしエンジニアがもっと優遇される社会に日本がならないと、優秀な人は皆海外の企業に引っ張られてしまうでしょう。

非常に興味深い話で、世界の経済状況の把握など、本当に鋭い目で世情を解析されていました。講演後の質問に「少子化への意見は?」と問われたら、「子宮ポットの開発」を提案されていました。要は人工子宮(Review)です。私の友人が人工子宮の研究をしていたなと思います。たまごっちではないですが、現在の医学及び工学の知識・技術を集積すれば10数年後には可能なのかもしれません。結婚の少ない現在の社会情勢とあまり改善の見込めない将来を見ればそのような技術開発も重要だなと思いました。考えさせられるご講演でした。

最近は郵便料金はじめ日本の物価もじわじわと上がってきています。一方で医療の収入の元となる診療報酬はほとんど変わっていません。これだと医療従事者の給与を上げることができず、どうにも医療の低迷が危惧される事態です。 なんとかお金の量に応じた値段設定を検討してほしいと思います。




 


2024年11月10日日曜日

技能オリンピックと若き天才

 

技能オリンピックと若き天才

森田明夫

先日NHKラジオで寺島実郎さんだったと思いますが、世界技能オリンピックのことを紹介していました。その中で、なんで日本のマスコミや国はこういった優れた若い人たちを讃えないのだろうと言っていました。

技能オリンピックというのは1950年にスペインでの第一回から始まった職業・産業技能を国際的に競いあう2年に一度開催されている大会だそうです。原則22歳までが参加資格(種目によってはもっと年長まで参加できるものもある)があって、我々の関連する料理、美容からホテルフロント・レストラン接客、貴金属加工、旋盤、再生可能エネルギー、その他工業技術など40数種類に及ぶ種目を競うそうである。基礎的な理論から実践までを点数づけして競うそうである。日本は第11回から参加し、金メダルや銀、銅メダルの数が世界3位くらいだった頃まではマスコミでも取り上げられたが、最近は成績が振るわないので、あまり取り上げてくれなくなったそうである。私もこのラジオで紹介されるまでは全く知らない催しでした。ただ今年リヨンで開催された大会では久しぶりに金メダルや上位入賞した若者が多くおり全体で5位の成績だったそうです。内容を見ると水の管理とか、磨き技術などあまり馴染みのない仕事も多いですが、このような若い人たちが頑張って日本の産業、国が栄えていることを知ってほしいというのが寺島さんのお話でした。この大会に出場するには、まずは日本の中で選考会があって、その中で選抜された人たちが大会に出場するそうです。今年見事入賞、メダルを取った人たちはこちらのようなリストです。

金メダルは産業機械(デンソー;清水源樹さん)、自動車板金(トヨタ自動車;小石さん)、美容・理容(クラルーム学院:濱吉さん)、車体塗装(トヨタ自動車:星野さん)、再生可能エネルギー(きんでん:郡安さん)の5名、そのほか銀メダルや銅メダル、敢闘賞などを取得した人たちが多勢います。帝国ホテル、日産、その他いろいろな会社や学校がバックアップして一生懸命若い人たちを育成しようとしているのがわかります。

ビデオなどもあるので、ぜひ一度ご覧いただくと良いと思います。また今年の日本全国大会は11月末に愛知であるそうで、また国際五輪の2028日本であるそうです。

厚労省の国際大会の結果紹介はこちら

世界大会の紹介Youtube

日本の予選ビデオはこちら

競技の紹介はこちら

競技職種は以下の41職種だそうです。

機械系(9職種):

機械組立て、プラスチック金型、精密機器組立て、機械製図、旋盤、フライス盤、試作モデル製作、自動車工、時計修理

金属系(5職種):

構造物鉄工、電気溶接、自動車板金、曲げ板金、車体塗装

建設・建築系(9職種):

タイル張り、配管、左官、家具、建具、建築大工、造園、冷凍空調技術、とび

電子技術系(5職種):

メカトロニクス、電子機器組立て、電工、工場電気設備、移動式ロボット

情報通信系(3職種):

IT ネットワークシステム管理、情報ネットワーク施工、ウェブデザイン

サービス・ファッション系(10職種)

貴金属装身具、フラワー装飾、美容、理容、洋裁、洋菓子製造、西洋料理、和裁、日本料理、レストランサービス

 

医療の世界もそうですが、このように競い合ってまた国際的なライバルを持って成長してゆく、特にこの若い年代にそういうことに触れられる機会があるのは素晴らしいことだと思います。ものづくり日本と言われてきましたが、なかなか今後AIとの競合などで、人間の生身の力を出せる機会が減ってくることが予想されます。新たな発想や技術って最終的には人間が生み出さないといけないものだと思います。ですので、こうやって若いうちから訓練して力をつけて新たな技術や展開を見つけて行くのがますます大切になってくると思います。

 

雑談:

今回もあまり医療と関係が薄い話でしたが、若き天才として、最近もう一人とても感動した人がいます。田中一村1908~77)という画家です。今上野の東京都美術館で特別展が開催されています。NHK日曜美術館などでも紹介されたのでご覧になった方もいらっしゃるかと思います。晩年は奄美大島で過ごされたので、奄美大島には彼の記念美術館があるそうです。その所蔵品も含めて若き日の作品から300点余が公開されています。最初から驚きの連続です。妻は洋画が好きであまり日本画は、、、だったのですが、一緒にいって、彼女すら驚きの連続でした。まず8歳で彼が描いた蝉の絵、14歳のつゆ草、藤の花。つゆ草をそこにあるように描きます。東京芸大に入ったけれど、個展や注文が多く退学、その頃に描いた菊数種の襖(屏風)絵など本物よりも菊っぽいです。なにしろものを見る力で生きた描写ができる。ものの本質を見極めて、それらが放つ“生”を絵に表すことができるようです。30代に千葉で描いた絵などは、本当にその土地にいってみたい郷愁に駆られます。晩年に奄美で描かれた南国の植物、鳥などの絵は、大型の縦長の作品群になっており、最後の一室にまとめてあります。ものすごい迫力です。

一つの美術展を見ただけですが、その日は家に帰ってぐったりするくらい精神が動かされました。こんな感覚になったのは久しぶりかと思います。

迸るエネルギーと才能をもった人がいるのだということを改めて知ることができました。例えばピカソとかモネとか、佐伯祐三、東山魁夷さんとか優れた作品をたくさん描かれている人はいますが、これほどの数の作品を一同に展示できる機会は少なく、またその画家のエネルギーを感じられる機会は少ないと思いました。

暑さもやっと和らいできた芸術の秋、モネ展も開催されるようです。皆様もぜひ芸術で心の刺激を受けてきてください。

 

 

https://www.youtube.com/watch?v=agchtAOuoDI

 

 


 
 
田中一村の絵は感動します。
 

 

Yaşargil先生を偲んで

  Y   Yaşargil 先生を偲んで                                                                                            森田明...